北山川の観光筏(いかだ)下りに乗船したことがある人なら、筏師の巧みな櫂(かい)さばき技術を素晴らしいと感じたのではないか。先日、和歌山県内で初となる日本森林学会認定の林業遺産に「北山川の筏流し技術」が登録され、認定証が同村の山口賢二村長から運航を担当する北山振興(株)の筏師・山本正幸さん(代表取締役)に手渡された。登録は今後の観光振興に弾みが付き、村民にとっても誇りとなるものだ。
16世紀ごろから昭和30年代まで継承されてきた木材流送の技術。古くは豊臣秀吉が大坂城、伏見城築城の用材として求めたことをきっかけに、流域の木材生産が発展したことで、良質な木材が筏によって大量に搬出されるようになった。しかし、近代化に伴う道路整備により、トラック輸送への転換や大規模なダム開発などで、北山川水系での木材流送としての筏流しは昭和38年5月が最後となった。
村おこしの目玉として昭和54年8月から観光筏下りが始まり、伝統の技術は今に引き継がれている。山本代表は、500年を超える歴史と伝統を持つ筏流し技術を引き継いできた先人たちに感謝しながら、「今後それらを引き継いでいく重責と使命感を改めて実感し、身の引き締まる思い」と気を引き締めた。筏師は現在16人で、半数ほどが移住者。ある若手の筏師は「夢は75歳まで筏師を続けること」と仕事への誇りを熱く語っていたが、非常に頼もしい。コロナ禍明けの今年度は、例年通り年間7000人の乗船客を目指している。外国人観光客の姿も散見されるなど好調な滑り出しで、あとは天候次第。
また、村内では現在、国道169号奥瀞道路3期の工事が進んでいる。完成すれば、村内中心部まで観光バスでも往来できるようになる。道路開通で村はこれまで以上に団体客への働きかけを行うチャンスで、村の経済振興と発展が見通せる。
開通までの間、今回林業遺産に登録された筏流し技術を、さまざまな方法で外に周知し、「行きたい」、「乗ってみたい」と思わせることが大切になる。もちろん、技術には安全第一を前提としたものであることも伝えてもらいたい。これからの北山村に大いに期待したい。