新たな年が始まり、それぞれの立場で、今年一年を飛躍の年にしようと誓いを立てているのではないか。コロナ禍に加えて物価高騰の波が収まらず、先行き不透明な世の中が続くが、こんな時だからこそ、しっかりと前を見据え、まずは地域の活力を高める流れを起こしたい。鍵を握るのは、当地方の主力産業の一つである観光だ。
那智勝浦町の堀順一郎町長は、コロナ禍でも徐々に回復しつつあった昨年下半期の観光動態を見ながら今年の展望について「V字回復を目指す」と力強く語った。世界遺産の那智山を訪れた観光客を、まちなかに呼び込んで宿泊につなげることに力を注ぐ。新宮市は昨年末のEバイク本格導入を踏まえ「サイクルツーリズム」(自転車観光)を推進する。熊野市はスポーツ合宿や大会の誘致に引き続き努める。それぞれの自治体で思惑があり、目標達成に向けて関係団体と連携しながら各担当者が奔走し、時にはトップセールスも見られるだろう。
一方で、ライバルである他の観光地も必死の取り組みを見せるはず。これまでと同じことをしても、“伸びしろ”は少ない。地域内で観光客を取り合うのではなく、すみわけしながら、地域全体の浮上を考える。厳しい競争を勝ち抜くには、広域連携をこれまで以上に強化して臨んではどうか。
人口減少が進む地方ほど、広域行政による住民サービスの効率化は今後、ますます求められるだろう。南郡・熊野市は病院や消防事業ですでに連携し、ごみ処理に関してはさらに広域の東紀州5市町での運営に向けて準備を進めている。新宮市・東郡は公設市場や児童養護施設などを長年広域で運営。県を越えての連携では、環境衛生(し尿処理・火葬)で実績がある。
観光やスポーツ交流の広域連携は基本的なハード整備が不要で、メインは誘客に向けたソフト部分の充実。これまでの信頼関係があれば、ハードルはそれほど高くないはず。各自治体から職員を出向させて事務局を置く。本気で勝負に出るなら、顔を合わせて互いの自治体のセールスポイントを共有し、この地域が1冊で分かるようなパンフレットをまずは作ること。年配者向けには紙媒体は欠かせず、若い世代にはSNSを駆使して情報発信してほしい。観光客からすれば、自治体の垣根は関係ない。
飲食店や土産物店の協力も不可欠。例えば土産物で、各店の逸品を詰め合わせたスペシャルパックを限定販売したり、観光地を巡るスタンプラリーによって飲食店でワンドリンクサービスしたり。広域で集まればいろいろなアイデアが出て、可能性が広がる。
今年の干支(えと)は「卯」(う)。ウサギのように跳ねる飛躍の一年だったと振り返れるよう、広域観光の元年にしてもらいたい。