「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録から20周年を迎える今年、和歌山、三重、奈良の3県や各市町村では、さまざまな記念行事を企画し、さらなる誘客に弾みをつけようとしている。世界に認められた遺産を、観光資源として地域の繁栄に生かしながら、紡がれた歴史を後世に守り伝えていくことは、今を生きる世代に課せられた課題だ。
「川の参詣道」として世界遺産に登録されている熊野川。舟に乗って川を下る「川舟下り」は新宮市の代表的な観光資源と言える。新宮市や市観光協会のホームページやパンフレットでは、コバルトブルーの川面をゆったりと川舟で下る様子が映る。これを目当てに当地を訪れる観光客は多い。しかし、乗船客が全て満足して帰っているかと言えば、そうではない。川の濁りの問題で、「普段はもっときれいなのですか」と尋ねられることもあるという。
熊野川とその支流には5つのダムと発電所がある。上流のダムからの放流時には濁った状態が数日間続く。ダムを運営する電源開発株式会社は「濁水長期化軽減対策」として、雨が降った際に濁水を早期に放流し、ダム水位を低下させた後に貯めた清水を発電時に使用することで、発電再開後の放流濁度を低下させるようにしている。紀伊半島大水害では熊野川が氾濫し、中流域や下流部で甚大な被害が出た。これを教訓に、ダムの運用を含めた熊野川の治水・利水に関して、関係機関が連携して取り組んでいるが、観光的な視点での議論は十分にされていないのではないか。
自然相手でコントロールが難しいことは理解するが、濁った状態をできるだけ短く、特に川舟下りの利用客が多く見込まれる週末には美しい状態になるよう意識してほしい。7月7日は世界遺産に登録された日。天候によるが、その前後は放流せずにパンフレット通りの熊野川であることが理想。新宮市によると、上流のダムから土・日曜日の放流はもともと行われないが、登録日前後の放流については配慮するよう事業者に要望しているという。
新宮市議会には、熊野川の水質問題や治水対策などに関する調査・研究を行う熊野川対策特別委員会がある。自分たちのまちの観光資源を生かし守るため、これまで以上に積極的な活動を求めたい。川舟下りは船頭不足も大きな課題として挙げられており、熊野川対策に充てられている事業者からの協力金なども船頭育成や雇用に使うことを検討してはどうか。