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紀南抄「火を畏れる」

 沖縄のカフェで働いていた際、キッチンに神棚があった。沖縄では「ヒヌカン」という火の神を台所に祭り、毎月1日と15日に「チィタチ・ジュウグニチの拝み」として主に女性が拝む風習があるという。神は灰に宿り、女性独立の際には母らが守ってきたヒヌカンの「ウコール」(香炉)の灰を継ぎ新たな家で迎える。

 「火」「迎える」といえば、当地方では神倉神社のお燈祭りがある。女人禁制という側面の一方で、古くは女性にも、男が持ち帰った神火を家で迎え入れ、暗闇にともして熊野神の来臨を告げる役割がある。家の中の火を女性が司るというのは、熊野も沖縄も同じようである。

 もう一つヒヌカンと共通点を持つ信仰がある。アイヌの「カムイノミ(神への祈り)」である。アイヌで火の神は人間の願いや訴えを聞いて他のカムイへ伝えてくれるものだが、ヒヌカンも同じように他の神々へ話を通す「ウトゥーシドクル(お通しどころ)」とされ、ヒヌカンの前で悪口は言ってはいけない。

 3点でつながる火の信仰。火災に戦火、ガスコンロに暖房の温かみ。畏れることを忘れないでいたい。

【稜】

      7月27日の記事

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