この地へ移住して、3月18日で丸2年が経過した。熊野に教わったことはたくさんある。胎内のように人を深く抱く豊かな自然環境と、そこ根付く食べ物や信仰、人々の温かな心意気。第二の原風景があるなら、きっとこの風土がそれなのだろう。
かつてはどこの商店街もにぎわっていたらしい。大きな水害もあったという。点在する神社は元をたどればいくつもの神社が合祀されてできたもので、信仰も昔はより多くさまざまな形があったことだろう。これまでの2年間、私にはいわば「アフターストーリー」の中に訪れた新参者という気分があった。
しかし今この瞬間、この地域で生きる人々のエネルギーに触れるに従い、それは少しずつ薄らいでいった。その土地に生きるということを考える。人口減、コロナ禍、社会情勢の変化、予見される南海トラフ大地震…。さまざまなことはある。しかし今ここに立って改めて思い当たるのは、熊野にうたわれた「よみがえり」ということ。その本質は自分自身が、そしてあらゆる人々が過去を受け入れて手放し、今を生き、未来を紡ぐその熱量のことではないか。熊野の道を今日も歩く。
【稜】