戦後78年となり、尾鷲市の最後の戦争未亡人の方が先日亡くなったと聞いた。実際に戦争を体験した人の話を聞いたこともあるが、戦争に対して理屈を越えた憎悪のような拒絶感を持っていたことが印象深い。
読書が好きでジャンルを問わず楽しく読むが、戦争を題材とした作品を読む時は背筋が伸びる。特に大正時代から高度経済成長期に至るまでの作品には、戦争を経験してきた作家たちの心が表れているのか、特有の暗さを感じることが多い。おそらく現在の作家がどれだけ試行錯誤しようとも、拭いきれない深い闇は表現できないのかもしれない。
戦争の痛みと悲しみを実際に感じてきた人が一人、また一人と少なくなる中、ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにし、台湾有事の危険性がささやかれ、防衛費増額もやむなしの風潮を見ると、もはや戦後ではなく、新たな戦前に入っているのではないか、と不安になる。
今日の日本が平和である大きな要因の一つとして、戦争を知る人たちの強い思いがあることは真実である。戦争を知らない私たちの世代が、この幸福をどう保っていき、子孫に受け継いでいくか、託された責任は重い。
(R)