山肌の急斜面にある階段を、荷物を抱えた配達員さんが駆け上っていく姿を見た。平地が少ない当地方では、車が入れない場所に家を建てなければならない事情もあったのだろう。雨の日や荷物が多い時は大変だろうなと率直に感じた。
旧熊野川町にある今はなき祖父母の家がまさにそれで、駐車場から家まで、あまりきれいに整備されていない石段を上ったり下りたりしなければならなかった。そこで生活したことはないので特に不便は感じなかったが、同居していた叔父(おじ)は高齢の祖母をおんぶしながら、夜は懐中電灯を片手に家に帰っていたそうだ。
今よりはるか前には家の横で牛を1頭飼っていて、その石段を下りてかなり離れたところにある田んぼまで連れて行っていたという。この牛が怠け者で仕事が遅く、ほかの牛が田かきを終えて帰ろうとすると、自分の分が終わっていないのに帰ろうとしていたという話を母から聞いて、笑った記憶がある。
どこに行くにも車で簡単に移動できるようになった現代。すっかり便利さに慣れてしまっているが、昔の人はどこに住んでいてもたくましく生きていたのだなあと思う。
【織】