「楯ヶ崎に連れて行ってほしい。ついでに阿古師神社と対岸の室古神社も行ってみたい」。先日、20代の若者から言われた。
一昨年、福井県の景勝地「東尋坊」を兄弟2人で見てきたという。波の浸食で荒々しく削られた断崖絶壁が1キロにわたって続く奇勝地で、世界にも3か所しかない「輝石安山岩(きせきあんざんがん)の柱状節理」という珍しさなどで国の天然記念物に指定。「目がくらむほどの絶景」のうたい文句にひかれて出掛けたが、切り立った壁は最も高いところで25メートル。思ったよりスリルは感じず、当地方にある絶景ポイントを探したという。
当地方では高さ80メートルの楯ヶ崎をはじめ、尾鷲市から熊野市にかけて柱状節理が続く。岩壁がそそり立つ海金剛は、通常、海上からしか見ることができないが、三木崎と楯ヶ崎は遊歩道沿いに現地まで行くことができる。
絶景で全国的に知られ、駐車場からほど近く、年間120万人が訪れるという東尋坊。高さなどではそれをはるかにしのぐが、当地方は海から見た方が迫力を実感でき、楯ヶ崎ですら国道311号から片道40分ほどかかるなど、それなりの道を、時間をかけて歩かなければならない〝秘境〟で、訪れる人は多くない。
柱状節理や滑滝、海の青さを満喫できる魅力スポットとして先日放送された九鬼町の大配(オハイ)。反響は良かったようだが、市内の50代の女性から「どこから行くの」と聞かれるほど、認知度は高くない。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で旅行を控える動きが加速。現地スタッフが案内するオンラインツアーを企画する旅行社もある。出控えのこの時期だからこそ、ネットなどを見てくれる人もふだんより多いはず。コロナ終息後の来訪を見据えて、この地ならではの魅力を片っ端から掘り起こし、密にならないアウトドアの良さを含めてネットやテレビなどでどんどん発信する必要がある。
何年も前からいわれてきた集客の決定打が打てないまま、いよいよ来年夏には熊野尾鷲道路II期が開通する。いまできることを必死で取り組まないと、素通りされ、ストロー現象で衰退のスピードがさらに上がる。これが本当に〝最後のチャンス〟。今を逃すとチッキの再生はない。